スポーツコンプレックスとは?その機能と、注目される背景、事例を徹底紹介

スポーツ施設の運営には、試合がない日の稼働や、収益の安定化、地域との協働など、さまざまな課題があります。そこで、近年注目されるのがスポーツコンプレックスです。これは、複数の競技施設や周辺サービスをまとめ、日常とイベント時の両方で利活用を図る施設を指します。

 

この記事では、

・スポーツコンプレックスとは何か?
・注目されている背景
・現在運営されている施設の事例

を紹介します。



スポーツコンプレックスとは何か?

スポーツコンプレックスの定義    

スポーツ庁によると、スポーツコンプレックスとは、競技施設を集約し、複数種目の開催を可能としつつ、各競技や団体間での連携を強めることを目的とした施設です(※1)。

 

既存のスポーツ施設は、体育館やグラウンドといった、地方公共団体が管理する施設を単体で貸し出す形が中心でした。一方、スポーツコンプレックスは、アリーナや陸上競技場、プールなど、複数の競技施設が集約されています。さらには飲食店などの周辺施設や行政サービスなど、スポーツ以外の分野の機能も組み合わせて包括的な運営を行い、まちづくりへの貢献も目指しています(※1)(※2)。

 

まちづくりへの貢献を通して利用者層を広げることで、チームや競技団体にとっては練習環境の確保と試合での観客動員を、自治体や施設運営者にとっては公共性と収益性の両立を図ることができます(※1)。  

 


機能1:競技、練習、大会運営を行う

スポーツコンプレックスは、各競技の質を落とさずに、同時並行で複数の競技で利用することが可能です(※3)。

 

メイン会場に加え、ウォームアップトラックや練習場などを備え、悪天候などで日程変更が起きても、調整機会を確保することができます(※3)。
大会時に備えて、控室や医務室に加え、ドーピング検査室なども備えています。さらには、フィットネスや温浴等の付帯機能も組み合わせ、競技後の選手のケアから一般の来場者の利用までを見通して設計されています(※3)。

 


機能2:スポーツの観戦、イベント運営を行う

ライブなどのイベント運営も担います。

 

スポーツ観戦からライブなどの多様なイベントを開催するために、良好な視界や照明・音響・映像表示が整備されています。また、入退場での混雑回避や、選手のファンサービスなども考慮した会場設計になっています(※4)。

 

既存のスポーツ施設ではあまり考えられていなかった、機材の搬入動線や、床・吊物の荷重、電源・通信設備なども充実しています。たとえば、高度な通信設備を要するeスポーツのイベントなども開催可能です(※3)。

 


機能3:文化や行政的なサービスを支える

競技以外のサービス機能でも稼働を支えられる点が、既存のスポーツ施設との大きな違いです。

 

たとえば、飲食施設や、物販、宿泊、会議やリモートワークが可能なオフィス、図書館、行政窓口、医療などを併設し、スポーツ以外の目的で来る人も多いです。運営側はイベントの有無に左右されにくい売上源を持てるうえ、地域との接点を増やすことができます(※5)。

 

さらに、そうした複合サービスを運営するために、IoTを導入する施設も多いです。照明・空調や混雑の管理も行えるようになり、より効率的に競技利用を図ることも可能になります(※6)。

 


機能4:防災・レジリエンス拠点を担う

スポーツコンプレックスは、災害時には避難所や支援物資の集積・保管拠点としても機能します(※7)。

 

屋内の大空間とバックヤードを活かし、物資の受入・仕分け・配布、要配慮者の待機、救護スペース確保までが可能です(※7)。

 

また、大型ビジョンや場内放送、デジタルサイネージといった、情報を多くの人々に一斉に伝えられる設備を備えている点も重要です。たとえば、発災時には支援情報等を大型ビジョンで表示することで、混乱を抑えることができます(※8)。

 


機能5:運営人材を育て、地域の担い手を増やす

スポーツコンプレックスは、施設の運営を通して人材を育て、地域の担い手を増やす機能も担います。

 

施設運営においては、予約管理、興行・イベント運営、安全管理、スポンサー対応、テナント連携など、さまざまな業務があります。大会やイベントの運営を「教材」とすることで、施設運営業務を通して多様な力を身に着けることができます(※9)。

 

地域内で運営できる担い手を育てることで、地域産業の活性化を支えるとともに、外部委託への過度な依存も抑えることができます(※10)。

 



スポーツコンプレックスが注目される背景

公共施設の老朽化

スポーツ施設を含む公共施設は、老朽化しており、取り壊しが必要な建物も増えています。公共スポーツ施設は築30年を超える施設が令和7年時点で全体の約7割にのぼり、今後は改修が必要な建物が一気に増える見通しです(※11)。

 

一方で地方自治体の財政には限界があります。そのため、複数の競技から行政サービスの提供まで可能な施設が求められており、スポーツコンプレックスが注目されています(※12)。

 


単体施設モデルの限界

従来のような単体の施設は、利用が特定の曜日や時間帯、季節に偏りやすく、平日昼間や競技のオフシーズンでの稼働が見込めません。また、貸館料を中心に運営すると、維持管理費・修繕費の固定コストを吸収しづらく、赤字構造になりやすいという弱点があります(※13)。

 

スポーツコンプレックスは、複数の競技での活用も可能でありながら、飲食などの周辺施設も充実しており、多様な利用シーンを通じて従来の施設の弱点を補うことができます(※13)。

 


観戦方法の多様化による提供できる体験の競争が激化    

競技の観戦方法は多様化しています。配信やSNSでのショート動画、選手視点のカメラやドローンなどと結びつき、現地に来場しなくても楽しめる環境が整っています。

 

その結果、これまでよりも快適さや没入感、周辺施設の充実度によって、来場する理由に差が出るようになっています。観戦方法の多様化は、体験による産業の競争を強めており、より充実した体験が可能なスポーツコンプレックスが注目されています(※14)。

 


持続可能なまちづくりの推進    

持続可能なまちづくりは、どの自治体でも課題になっています。

 

多発する災害への備えとして、避難所や物資拠点といった多様な機能を持ちうる施設が求められています。また、少子高齢化が進む地域では、若年層の流出や教育機会の減少が課題となっています(※14)。

 

スポーツコンプレックスは、非常時のレジリエンスを高めつつ、教育や雇用の機会を地域に提供する施設であり、持続的なまちづくりに貢献します(※14)。

 


イベント市場の拡張    

スポーツ施設は、スポーツだけで稼働を埋める時代から、コンサート・展示・地域イベントなどの需要を取り込む“イベント会場”としての役割が増しています。

 

帝国データバンクによると、コロナ禍以降の音楽ライブ再開や観客動員の回復を背景に、スタジアム・アリーナ運営企業の売上が伸びたと報告されています(※15)。イベント市場の拡張によって、複数施設・多目的転用を前提にしたスポーツコンプレックス施設は、需要を高めています。

 



実際に運営されているスポーツコンプレックスの事例

スポーツ・宿泊・商業・オフィスも兼ねた大型複合施設
長崎スタジアムシティの事例

長崎スタジアムシティは、サッカースタジアムとアリーナを中心にオフィス・商業施設・ホテルなどの周辺施設を備える複合施設です。2024年10月14日にグランドオープンし、V・ファーレン長崎のホームスタジアム「PEACE STADIUM」は約20,000席で、ホテル併設のスタジアムビューが特徴です(※16)。

 

宿泊施設などを併設することで、観戦の前後の滞在時間が伸ばしつつ、混雑状況の緩和をすることもできます。試合日だけでなく、普段の観光からビジネス客までターゲットに集客することが可能で、Jリーグ開催時期でなくとも、収益を見込める施設となっています(※16)。

 


多様なスポーツの開催からMICE利用まで
SAGAサンライズパーク(佐賀県)の事例

SAGAサンライズパークは、アリーナ、陸上競技場、プールを中心に、整備されたスポーツコンプレックスです(※17)。

 

アリーナは約8,400席で、プロスポーツやコンサートのほか、展示会や国際会議などのMICE(企業の会議や、学会、展示会の総称)の開催も可能です。サブアリーナも、競技の練習のほか、MICE開催時には物販の集積所や第二会場などへ柔軟に転用できます。
隣接するスタジアムは観客席約15,000席で、雨天走路(全天候型ウォーミングアップ走路)など競技会運営を支える設備も充実しています(※17)。

 

一般利用客向けには、ランニングループや、マルシェ・ヨガ・PVに使えるパークテラス(電源・給排水・Wi-Fi等)があり、日常的な利用も可能です(※17)。  

 


災害復興と子どもたちの居場所づくりを担う
NOTO COMPLEX PLAYGROUNDの事例

NOTO COMPLEX PLAYGROUNDは、石川県輪島市の商業施設敷地内に整備された、高校生まで無料で利用できる屋内型スポーツ複合施設です。バスケットボール、スケートボード、ダンスなどを行うことができます。

 

地域の3×3バスケットボールの女子プロチームや、スケート協会、ダンススクール等と連携し、プロを招いたスクールの開催や、イベント会場としての活用を行っています(※18)。

 

ロックユニットCOMPLEXの寄附金を活用した「能登復興支援事業」の一環で整備が行われています。スポーツ施設の居場所機能を、災害復興へ活用する小規模スポーツコンプレックスのモデルになっています(※19)。

 


グラウンドと研修施設を備え人材育成も可能に
Jヴィレッジ(福島)の事例

Jヴィレッジは、サッカーのピッチに加えて、宿泊・研修機能も備える複合施設です(※20)。

 

同施設は学生向けインターンシップとして、受付・案内・現場対応などの業務体験を実施しており、施設を運営する仕事を学習機会に転換しています(※21)。

 

また、日本サッカー協会によるU-20審判員研修会も、Jヴィレッジで実施しています。指導者の育成においても、コーチ養成講習会の会場として活用されており、競技全体の担い手を育成しています(※22)(※23)。

 


スポーツ施設と、行政・文化的サービスを併設
Our Tampines Hub(シンガポール)の事例

海外では、スポーツ施設を地域の生活インフラに近づける形で複合化する例があります。シンガポールの“Our Tampines Hub”は、スタジアム・アリーナだけでなく図書館・行政機関・医療センター・商業施設を併設する施設です。地域の健康課題の解決や、福祉・娯楽の中心として機能しています(※24)。

 

行政手続きや通院、買い物などを同一施設で済ませることができる点がポイントです。また、別の用事の空き時間などで運動することもできるため、運動習慣を作りやすく、地域の健康やウェルビーイングの増進に貢献しています(※24)。

 



おわりに    

スポーツコンプレックスは、複数競技の開催や観戦、買い物や行政などの周辺サービス、まちづくりまでを担う、複合型施設です。施設の老朽化や、稼働の偏りによる赤字などの従来のスポーツ施設の課題に対して、施設の用途を多様化しつつ運営を共通化することでアプローチしています。

 

宿泊施設から商業施設を併用した大型の複合型施設から、復興などの社会課題の解決を担う施設、行政サービスを併設する施設など、さまざまな事例がありました。スポーツコンプレックスは、一つの目的にのみ特化するのではなく、多様な利用を見込める施設であることが重要です。

 


参照

(※1) スポーツ庁 Web広報マガジン|DEPORTARE – スポーツ庁 Web広報マガジン|令和6年度『多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ』選定拠点表彰式を開催

(※2) 文部科学省 我が国の体育・スポーツ施設

(※3) スポーツ庁 「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」選定選定事例集

(※4) SGSA – Guide to Safety at Sports Grounds (Green Guide) – SGSA

(※5) JSPIN – – Column: Azusa Sekkei Unleashes the Potential of Stadiums and Arenas to the World – JSPIN

(※6) 文部科学省 Our Tampines Hub

(※7) 文部科学省 スタジアム・アリーナにおける社会価値活用の手引き

(※8) 国土交通省 大規模地震発生時の帰宅困難者対策の推進に向けた官民連携の情報提供体制に係る検討調査

(※9) スポーツ庁 スタジアム・アリーナ改革について

(※10) スポーツ庁ホームページ – ケース教材:スポーツ庁

(※11) スポーツ庁 地域の核となりうる新たなスポーツ施設事例集

(※12) 総務省 総務省における公共施設等総合管理計画の策定推進 及びPPP/PFIの取組について

(※13) スポーツ庁ホームページ – スタジアム・アリーナ改革ガイドブック(第2版):スポーツ庁

(※14) スポーツ庁 スタジアム・アリーナ改革 ガイドブック

(※15) 株式会社 帝国データバンク[TDB] – スタジアム・アリーナ運営主要50社の動向調査(2025年)|株式会社 帝国データバンク[TDB]

(※16) スポーツ庁 Web広報マガジン|DEPORTARE – スポーツ庁 Web広報マガジン|令和5年度「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」選定拠点表彰式を開催

(※17) SAGA SUNRISE PARK|SAGA2024 国スポ・全障スポ

(※18) NOTO COMPLEX PLAYGROUND – 能登エリアの子ども向け無料アーバンスポーツ施設 – NOTO COMPLEX PLAYGROUND – 能登エリアの子ども向け無料アーバンスポーツ施設

(※19) NOTO COMPLEX PLAYGROUND – 能登エリアの子ども向け無料アーバンスポーツ施設 – 子ども向けアーバンスポーツ施設「NOTO COMPLEX PLAYGROUND」が11/1(土)にグランドオープン! 〜ロックユニット「COMPLEX」の寄附金を活用、雨風太陽も参画する一般社団法人NOTO PLAYGROUNDが運営〜 – NOTO COMPLEX PLAYGROUND

(※20) ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ – ナショナルトレーニングセンター Jヴィレッジ

(※21) 【公式】J-VILLAGEJ(ヴィレッジ) ホテル | 福島県 楢葉町 – 採用情報 | 【公式】J-VILLAGEJ(ヴィレッジ) | 福島県 楢葉町

(※22) JFA – U-20審判員秋季研修会をナショナルトレセンU-14/U-13のJヴィレッジと時之栖で実施|JFA|公益財団法人日本サッカー協会

(※23) JFA – 2025年度 JFA ユースBコーチ養成講習会 開催要項|JFA|公益財団法人日本サッカー協会

(※24) JSPIN – – Column: Azusa Sekkei Unleashes the Potential of Stadiums and Arenas to the World – JSPIN


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