これからのスポーツ施設が果たす役割とは?最新アリーナの事例を徹底紹介

近年のスポーツ施設は、試合をするだけにとどまらず、街の活性化や日常時・災害時の活用まで見据えて建設することが求められています。

 

本記事では、

・これからのスポーツ施設に求められる役割
・最新アリーナの事例

を紹介します。



これからのスポーツ施設が果たす役割

地域経済とコミュニティのハブとしての機能    

これからのスポーツ施設は、試合の日だけ人が集まる場所から、地域の活動が集まる拠点へ役割が広がります(※1)。

 

野村総合研究所によると、全国各地でアリーナ・スタジアムの新設やリニューアルが進み、2026年以降も新規開業が続く見通しです。さらに、公設公営から公設民営・民設民営まで官民連携型が増え、運営主体の幅が広がっています(※2)。

 

運営主体が多様化すると、地域との関わり方も丁寧に設計する必要があります。たとえば、学校利用や市民利用をどう確保するか、地域イベントをどのように開催するか、周辺商店街とどう連携するかといった視点を持ち、単なるイベント施設にとどまらず、地域活性化の中心地となることが求められます。
 


防災の拠点としての機能

スタジアムやアリーナは、災害時には避難所・物資集積場所として機能します。

 

以前は、スタジアム・アリーナは試合や興行の開催場所として整備されており、災害時の利用は臨時の受け入れにとどまりがちでした。近年は大規模災害の教訓から、避難所・物資集積・情報発信の拠点として位置づけ、在宅避難者の支援も含めて「避難所の質の向上」を担う施設として準備することが求められています(※3)。

 

経済産業省は、スポーツ施設の災害時用設備の拡充、備蓄倉庫や地下貯水槽・地下空間の活用などを促進しています(※3)。

 

帰宅困難者の一時滞在、スマホ充電、Wi-Fi等の通信確保も、今の災害対応では欠かせません。設備面では非常用発電機・備蓄燃料・簡易浄水器等を整備し、自治体との協定で優先利用、費用負担、復旧後の再開基準、訓練(開設手順・指揮系統・受援・ボランティア受入)まで、平時から備えておくことが必要です(※4)。
 


スマート化・データ活用による体験と運営効率の向上

従来のアリーナは、紙チケット確認や売店の行列、満員時の通信混雑が課題でした。

 

これからは通信インフラと公式アプリを前提に、チケットレス・キャッシュレス、モバイルオーダー、館内ナビや情報配信を一体化して、混雑や長い待ち時間を防ぐことが求められます(※5)。

 

同時に、人流・購買・滞在時間などのデータを用いて、ゲート開放、スタッフ配置、補充・清掃の優先順位、警備や緊急対応を継続的に改善できる体制を整備する必要があります。

 

データ活用においては、データの取得目的の明確化、同意、代替手段、管理の透明性をセットで設計し、利便性と信頼を両立させる必要があります(※5)。
 


人材育成・教育連携(スポーツ×キャリア)の機能

次世代のスポーツ施設は、地域でスポーツビジネス人材を育てる学び場としての機能も担います。

 

スポーツ施設の運営には、試合運営だけでなく、チケット販売、ファン・スポンサー対応、施設管理など幅広い専門性が必要です。だからこそ、施設運営会社・チーム・自治体が、大学や専門学校、地元企業と連携し、インターン、ボランティアなどの段階的育成を設計することが有効です。

 

スポーツ庁もスポーツ経営人材の育成・活用を政策として位置づけ、カリキュラム開発や外部人材の流入促進などの取組を進めています(※6)。

 

加えて、選手・指導者のデュアルキャリア支援などを通して、競技経験を地域の仕事へ接続する仕組みによって、地域の産業を支えることにもつながります(※7)。
 


脱炭素・環境性能とエネルギー拠点としての機能

これからのスポーツ施設は、興行の器であると同時に、地域の脱炭素を進める「エネルギーの使い方の見本」としての役割が強まります。

 

施設は照明・空調・給湯などの負荷が大きく、稼働日と非稼働日の変動も大きいため、省エネ設計と、再エネの導入・調達を設計することが重要です(※1)。

 

また、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化も進んでいます。ZEB化とは、快適な室内環境を確保しながら、省エネと再エネ等によるエネルギーの創出で、建物のエネルギー消費量の収支をゼロ(またはマイナス)を目指すことです(※8)。これから建設されるアリーナは、脱炭素仕様を標準的に備えておく必要があります。

 

さらに、蓄電池や非常用電源、電力の融通・制御を備えることで、平時はピークカット等で運営コストを抑え、有事は地域のレジリエンスを支える拠点にもなります。  
 



最新アリーナの事例


アリーナ経営もホームチームの運営会社が行う次世代型の経営

■ TOYOTA ARENA TOKYOの事例

TOYOTA ARENA TOKYOは、チーム運営と施設運営を近い距離で行っているアリーナです。開業後はトヨタアルバルク東京が運営を担い、バスケットボールB.LEAGUE所属のアルバルク東京のホームアリーナとして使うほか、スポーツを中心にさまざまなイベントに対応する多目的アリーナとなる予定です(※9)。

 

従来の多くのアリーナは自治体所有・指定管理で、クラブは「借り手」になりがちです。TOYOTA ARENA TOKYOはクラブを擁する運営会社トヨタアルバルク東京が施設の運営も担い、試合の開催を通して見つかった入退場の詰まりやすい場所、売店のピーク、演出のタイミングなどの改善点を、即座に設備と運営へ反映できます。さらに可変席+大型映像音響、ラウンジ等で用途別に体験を作り分け、パーク開放で365日稼働を目指しています(※10)(※11)。  
 


高い通信技術を用いた快適な体験設計

■ IGアリーナの事例

IGアリーナは、高い通信技術と体験設計を組み合わせた「スマートアリーナ」です。スマートアリーナとは、高い通信とアプリを駆使し、チケット・場内導線・購買・情報配信・演出をデータで一体最適化し、来場者体験と運営効率を同時に上げるアリーナです(※12)。

 

従来のアリーナは、満員時に通信が不安定になり、紙チケットや売店の行列が起きやすいのが課題でした。IGアリーナは、高い通信技術とIG Arena 公式アプリを活用し、チケットの購入・表示、飲食店のモバイルオーダー、イベント情報やクーポン配信などの機能を提供しています。また、他会場とリアルタイム同期した演出も可能であり、これまでの課題の解消と、新たな演出の両方を、高い通信技術によって可能にしています(※12)  
 


防災拠点としての活用

■東京ドームの事例

東京ドームシティは、文京区との協定に基づき、災害で鉄道などが停止して帰宅困難者が発生した際、一部施設を帰宅困難者の一時滞在施設として開放します。帰宅困難者の一斉帰宅を抑え、救命救助や緊急車両の動線を確保することが可能になります(※13)。

 

運用時は、待機場所の提供に加えて、被害状況や交通情報の収集・掲示、トイレなど衛生環境の確保、滞在者への情報提供といった役割も担います。受け入れ時には受付・誘導で混乱を抑え、体調不良者や要配慮者のために区画を分けるなどのゾーニングも行います(※13)。

 

通信手段の確保や充電場所の案内、問い合わせ対応の窓口などを設けることで、たんなる待機場所ではなく、二次被害を減らす安全装置として、災害時は機能します(※13)。  
 



イベント開催日でない日も地域を盛り上げる

GLION ARENA KOBEの事例        

GLION ARENA KOBEは、アリーナ単体ではなく、施設周辺の地域全体のにぎわいを目指しています(※14)。

 

民設民営の場合、イベント誘致やテナント運営などの意思決定を速くしやすい一方、稼働を作れないと収支の減少に直撃します。そこで重要になるのが、イベントがない日でも人が来る理由を用意することです。たとえば、散歩や食事の目的地が近くにあれば、イベントの有無に関係なく来訪が生まれ、結果としてアリーナの認知やリピートにもつながります。

 

このアリーナに併設されているTOTTEI PARKは、散歩やピクニックを楽しめる公園として開放されています。さらに館内にはレストランやカフェなどがあり、テイクアウトしたグルメを散策ルートやパーク内で楽しめるようになっています(※15)。  
 


スポーツ×コンサート×MICEの稼働設計

■SAGAアリーナの事例

地方アリーナの課題は、人気公演がない平日やオフシーズンに稼働が落ち、収益が季節とイベントに左右されやすい点です。

 

SAGAアリーナはスポーツ・コンサートに加え、会議・学会・展示会などのMICE利用(企業・団体のビジネス目的のイベントでの利用)も前提に設計されています(※16)。

 

メインアリーナは最大約8,400席で、イベントに合わせてレイアウトを変えられるフレキシブルな構造です。来場者と関係者の動線の分離、ポータブルフロアによる設営効率、大型トラック乗り入れが化膿であるといった、運営負荷を下げる工夫も施されています(※16)。

 

さらに、佐賀県は「MICE開催支援補助金」制度によって開催団体を支援しており、競技やコンサートによる使用に限らずに、年間稼働を増やすように試みています(※17)。
 


スポンサー企業と組んだ「実践型インターン」

■アルビレックス新潟×NTTドコモの事例

アルビレックス新潟とNTTドコモは、次世代ファンの創出をテーマに、約3か月間の実践型インターンシップを実施しています(※18)。

 

学生は地域やファン層の課題分析から始め、施策立案、クラブやパートナーへの提案、ホームゲーム会場での集客施策の実施、結果の振り返りまでを経験します。オンラインでの活動と、スタジアムや周辺地域での現地プログラムを組み合わせ、クラブ側の現場運営を経験できる点が特徴です(※19)。

 

地域に根ざしたスポーツビジネス人材の育成と、クラブの運営改善・ファン拡大を同時に狙う事例です。
 


環境への影響を最小限に    

■ Climate Pledge Arenaの事例

アメリカのシアトルにあるClimate Pledge Arenaは、スポーツから音楽ライブまで扱う多目的アリーナです(※20)。

 

同施設は、暖房、除湿、製氷などをすべて電力で賄い、運用における炭素排出の削減を行っています。さらに、排気ガスの排出量を追跡し、再生可能エネルギーの活用と排気ガスの量を実質ゼロにすることを目指しています。加えて、屋根で集めた雨水を貯留して氷づくり等に活用するなど、水資源の工夫も打ち出しています(※20)。

 

来場者の移動にともなう排気ガスを減らす施策として、イベントチケットに無料の公共交通パスを紐づけて、バスやライトレール、モノレール等へ乗車できるようにしています。加えて、会場での商品販売で使い捨てプラスチックを無くすなど、来場者の行動の変化も通して環境への取り組みを行っています(※20)。
 



おわりに    

これからのスポーツアリーナには、地域の交流と経済を生む拠点であること、災害時の避難・一時滞在を担う防災機能を備えること、通信とデータで体験と運営を高度化すること、人材育成に寄与すること、環境負荷を抑えた省エネ運営を行うことが求められます。試合の会場にとどまらず、平時と有事の両面で地域を支える施設になる必要があります。

 

事例からわかるように、次世代アリーナは、運営の仕組みの丁寧な設計が求められます。現場の気づきを即座に反映できる運営形態、通信とデータで混雑や購買を最適化して満足度と効率を両立する設計、イベントがない日にも来訪を生む日常機能などを組み込むことが大切です。さらに環境配慮や防災対応のような社会課題を運営仕様に落とし込むことが、持続的な運営につながります。

 


参照

(※1) 経済産業省 スタジアム・アリーナ改革ガイドブック

(※2) 野村総合研究所 地方アリーナ新時代

(※3) スポーツ庁 スタジアム・アリーナ改革 ガイドブック

(※4) 総務省消防庁 指定避難所における防災機能設備等の強化の推進について

(※5) 経済産業省 海外スタジアム・アリーナ事例集

(※6) スポーツ庁ホームページ – スポーツ経営人材の育成・活用:スポーツ庁

(※7) スポーツ庁ホームページ – スポーツキャリアサポート戦略:スポーツ庁

(※8) 環境省「ZEB PORTAL – ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」 – やさしい説明(ZEBとは?) | 環境省「ZEB PORTAL – ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ゼブ)ポータル」

(※9) トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト – お台場エリア「青海」に、多目的次世代アリーナ「TOYOTA ARENA TOKYO」竣工 | コーポレート | グローバルニュースルーム | トヨタ自動車株式会社 公式企業サイト

(※10) TOYOTA ARENA TOKYO | 屋外・運動施設ソリューション | パナソニックの空間ソリューション | Panasonic

(※11) トヨタアルバルク株式会社 「TOYOTA ARENA TOKYO」において 照明設備や映像演出設備による、新たな観戦体験を創出

(※12) 「IGアリーナ」が2025年7月13日にグランドオープン!

(※13) 株式会社 東京ドーム – 私たちは 人と ひと とのふれあいを通して お客様と「感動」を共有し 豊かな社会の実現に貢献します – 地域の美化活動/地域社会との関わり – 株式会社 東京ドーム

(※14) TOTTEI | GLION ARENA KOBE – 2025年4月4日開業 阪神・淡路大震災から30年の節目に誕生するアリーナを基点に新たなにぎわいづくりを  | NEWS : TOTTEI | GLION ARENA KOBE

(※15) TOTTEI | GLION ARENA KOBE – TOTTEI PARK : TOTTEI | GLION ARENA KOB

(※16) SAGAサンライズパーク – 主催者の方へ | SAGAサンライズパーク

(※17) 佐賀県 – SAGAアリーナでのコンベンション等の開催を検討される皆さまへ(パンフレット・補助金等) / 佐賀県

(※18) アルビレックス新潟 公式サイト|ALBIREX NIIGATA OFFICIAL WEBSITE – 【募集】アルビレックス新潟×NTTドコモ「ファンマーケティングインターンシップ」実施のお知らせ – アルビレックス新潟 公式サイト|ALBIREX NIIGATA OFFICIAL WEBSITE

(※19) NTTドコモ採用 – ファンマーケティングインターンシップ | 新卒採用 | NTTドコモ採用

(※20) Climate Pledge Arena is proud to be the first zero-carbon-certified arena in the world



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