なぜ今、クラブマネジメント改革が必要なのか?スポーツ組織の変革と最新動向

スポーツクラブの経営環境は、国際情勢の複雑化や災害リスクの増大などによって、かつてないほど不確実性が高まっています。こうした状況で、従来の運営方法をそのまま続けた場合、財務基盤の悪化やガバナンスの不全といった深刻な問題に直面しかねません。

 

クラブマネジメント改革の必要性は、制度面・財務面・組織面のいずれにおいても指摘されています。この記事では、改革を迫る社会的背景から、制度の動向、財務データが裏づける成果、そして実践の手順と注意点までを順を追って整理します。



クラブマネジメント改革とは


クラブマネジメントの定義と範囲    

クラブマネジメントとは、スポーツクラブの運営にかかわる経営活動の総称です。競技力の強化だけでなく、財務管理、人事、法務、施設運営、地域との関係構築まで幅広い領域を含みます(※1)。

 

クラブマネジメントは、スポーツ政策とも結びつきます。スポーツ庁は、スポーツの機会を提供する主要な担い手であるスポーツ団体のガバナンス改革と経営力強化を通して、国民がスポーツに関わる機会の安定的な確保を目指しています(※2)。つまり、クラブマネジメントの対象は1つのクラブ内部にとどまらず、リーグ全体や国のスポーツ政策とも結びついています。

 

こうした範囲の広さを踏まえると、現場の担当者はまず自クラブの経営課題がどの領域に属するかを整理するところから着手する必要があります。
 


改革が意味する構造的変化

クラブマネジメントにおける改革とは、日常業務の改善にとどまらず、組織の仕組みそのものを変える構造的変化を指します。こうした見直しは各クラブの自発的な取り組みに限らず、競技団体やリーグが求める運営基準の高度化とも連動しています。たとえば、UEFAはクラブライセンス制度を通じて、欧州サッカー全体の基準づくりと進化を導く透明で効率的な規制の枠組みを提供することを目標に掲げています(※3)。

 

この枠組みが示すのは、クラブ単体の努力だけでは改革が完結しないという現実です。リーグや統括団体が設ける基準に適合するために、各クラブは財務構造、人事体制、施設水準などを再設計しなければなりません。

 

したがって、改革を進める際には外部の制度要件と自クラブの現状を照らし合わせ、どの領域で構造的な変更が必要かを特定する作業が欠かせません。
 



改革を迫る社会的背景と課題


不確実性の高まりと経営環境の変化

スポーツクラブの経営を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。Jリーグのクラブ経営ガイドでは、複雑化する国際情勢や気候変動、地震などによる災害の発生といった不確実性の高い環境によって、従来型の経営が困難になりつつあると指摘しています。(※1)。

 

こうした外部環境の変化は、収入源の多様化やリスク管理体制の整備を後回しにできない状況を生み出しています。災害による試合中止、感染症による入場制限など、収益が突然失われる場面は過去にも繰り返し発生してきました。現場では、自クラブが依存している収入源を洗い出し、どの程度の外部環境変化に耐えうるかを把握しておく作業が求められます。
 


不祥事・ガバナンス不全の教訓

競技面の成果だけではスポーツの価値を維持できません。スポーツ庁は、国際舞台でのアスリートの活躍が国民に大きな勇気と感動を与えた一方で、不正行為や不祥事などスポーツへの信頼が大きく損なわれる事案が起きている事実を指摘しています。スポーツの価値を高め、国民に応援してもらえる環境を醸成するには、中央競技団体をはじめとするスポーツ団体がガバナンスコードを遵守し、透明性と公正性を確保していくことが不可欠であるとしています(※4)。

 

こうした教訓は、ガバナンス体制の構築を「あれば望ましい」ものから「なければ存続が危うい」ものへと格上げしました。自クラブのコンプライアンス体制や意思決定プロセスを文書化し、外部からの検証に耐えうる仕組みを整えておくことが実務上の優先課題です。
 


人材不足と組織基盤の脆弱さ

改革を実行するうえで最も深刻なボトルネックの一つが、人材の不足です。スポーツ団体を対象とした調査では、正規雇用者の過不足状況について「やや不足している」が33.7%、「不足している」が38.6%となり、不足と回答した割合が7割を超えました。契約・嘱託職員でも「やや不足している」が25.3%、「不足している」が22.9%に達しています(※5)。

 

さらに、人材育成に取り組む上での課題としては「育成にかける時間の不足」が76.0%で最も高く、「育成のための資金がない」が62.7%、「指導する人材の不足」が54.7%、「育成のためのノウハウがない」が41.3%と続いています(※5)。人が足りないだけでなく、育てる仕組み自体が整っていない実態が浮かび上がっています。
 



制度が導くマネジメント改革


クラブライセンス制度の役割

クラブライセンス制度は、リーグへの参加資格を審査する仕組みであり、クラブマネジメント改革を制度面から後押しする柱です。Jリーグはこの制度の目的を、サッカーの競技水準や施設的水準の持続的な向上と、クラブの経営安定化・財務能力・信頼性の向上と位置付けています(※6)。

 

クラブライセンス制度があることで、クラブは目先の試合運営や集客だけでなく、中長期で組織を維持する視点を持ちやすくなります。たとえば、収支管理や責任体制が明確になれば、経営判断の属人化を防ぎやすくなります。結果として、成績不振や外部環境の変化があっても運営が揺らぎにくくなり、クラブを持続的に成長させる土台づくりにつながります。


ガバナンスコード改定の要点

国内スポーツ団体のガバナンスを底上げする制度として、スポーツ庁が策定したガバナンスコードがあります。ガバナンスコードとは、組織運営の透明性や説明責任、意思決定の適正性を確保するために、スポーツ団体が整備すべき原則や体制を示した指針です。スポーツ庁は、中央競技団体に対し適切なガバナンス体制を構築することで社会に認められた存在として価値を向上させることを求めています(※7)。

 

ガバナンスコードは遵守状況の審査が行われる仕組みであり、対応が不十分な場合には具体的な改善期限が設定されます(※8)。現場では、自団体が審査基準のどの項目で課題を抱えているかを定期的に確認し、改善計画を更新していく運用が必要です。
 


UEFAの財務サステナビリティ規則

欧州に目を向けると、UEFAのクラブライセンス制度はクラブマネジメント改革の国際的な基準として機能しています。UEFAの執行委員会は2025年9月に新たなクラブライセンス規則を承認しました。これまでの10版と同様に、スポーツおよび経済情勢の定期的な見直しに基づく新規・更新の要件を含んでおり、競技、社会・環境の持続可能性、施設、人事・管理、法務、財務の6領域をカバーしています(※3)。

 

特に注目すべきは、社会・環境の持続可能性に関する要件の厳格化です。UEFAは、社会・環境の持続可能性戦略に関する条項、または社会・環境の持続可能性担当者に関する条項を満たさない場合、ライセンスの交付を拒否するとしました。これはUEFA戦略2024-30が掲げる持続可能性の文化の追求に沿った措置です(※9)。欧州のクラブに限らず、こうした国際的な潮流は、国内クラブが将来の基準変更を見据えた準備を進める上でも参考になります。  
 



財務データが示す改革の成果


Jリーグと欧州サッカー市場における改革の効果

クラブマネジメント改革の成果を端的に示すのが、財務データの推移です。Jリーグ60クラブ合計の売上高は過去最高の1,725億円に達し、前期比114%、50クラブが増収でした。入場料収入は前期比121%と大幅に伸びています。浦和レッズは2年連続で売上高100億円超となる102億円を記録し、サンフレッチェ広島は新スタジアム効果もあり前期比38億円増の売上高80億円に到達しました(※10)。

 

入場者数の面でも改革の成果が見えます。2025シーズンのJリーグ公式試合における年間総入場者数は13,503,210人となり、それまで最多だった2024シーズンの12,540,265人を超え、2年連続で最高記録を更新しました(※11)。

 

欧州でも同様の傾向が見られます。欧州サッカー市場は2023/24シーズンに8%成長し、過去最高の380億ユーロに達しました。5大リーグだけで200億ユーロを超え、全体の54%を占めています。トップクラブは収益の中で自主管理する割合を高めており、放映権への依存を減らしています(※12)。
 


B.LEAGUEクラブの収益構造

バスケットボールのB.LEAGUEでも、クラブマネジメント改革による収益拡大の動きが確認できます。B1リーグ合計の営業収入は約525億5,000万円、B1平均で約21億9,000万円でした。個別クラブでは千葉ジェッツが営業収入約51億7,000万円でB1最多となり、宇都宮ブレックスが約32億円、琉球ゴールデンキングスが約35億7,000万円と続いています。B1合計の当期純利益は約11億9,000万円でした(※13)。

 

サッカーとバスケットボールでは競技の規模やファン層が異なりますが、いずれのリーグでも上位クラブが複数の収入源を確保し、リーグ全体の底上げにつなげている構図は共通しています。  
 



改革を成功させる実践手順


経営フィロソフィーとPDCAの徹底

クラブマネジメント改革を現場で回していくには、まずクラブの経営哲学を明文化することが出発点になります。Jリーグのクラブ経営ガイドでは、フィロソフィーの構築と一貫性を持った経営計画の策定、計画・実行・検証・改善(PDCA)を回して経営を実践すること、最大のコンテンツであるフットボールの競技力を高め魅力ある「作品」として広く社会へ届けること、そして最も大切な存在であるファン・サポーター、パートナーと一体となりその拡大と充実に努めることを、クラブに推奨しています(※1)。

 

フィロソフィーが定まっていないまま個別施策を走らせると、部門ごとに方向性がばらつき、改革が部分最適に陥ります。経営計画を策定したあとは、実行、検証、改善のサイクルを一定の周期で繰り返し、進捗を数値で可視化することが運用の軸となります。  
 


ファン・パートナー拡大戦略

クラブの収益を持続的に伸ばすには、ファンやパートナーの数を着実に増やす仕組みづくりが欠かせません。Jリーグは招待施策をいわゆる「ばらまき」ではなく新規ファンを獲得する「サンプリング」の場と位置づけ、各クラブと連携しながら施策を実施しています。のべ応募者数は約282万件、新規のJリーグID獲得数は約14.6万IDにのぼり、JリーグIDの累計は500万IDを突破しました。新規来場者のリピート率は30%を超え、継続的な入場者数増に貢献しています(※11)。

 

ファンとの信頼形成には、対話の場を設ける取り組みも含まれます。浦和レッズは、天皇杯での試合運営規定違反を受けた再発防止策として「サポーター・ステークホルダーミーティング」を開始し、2024年には計18回、延べ213人が参加しました(※14)。問題が起きた後の対話の場を制度化した事例として、ファンとの信頼回復プロセスを設計する際の参考になります。
 



改革の際の注意点    


制度の導入だけで終わってしまう

制度を導入しても、それだけでクラブ運営が変わるわけではありません。規程や会議体を整備しても、現場の意思決定や情報共有、責任分担の見直しまで伴わなければ、制度は形だけにとどまりやすくなります。

 

スポーツ庁のガバナンスコードは、適切な組織運営に必要な原則を示す指針であり、書類を整えただけで完結するものではありません。Jリーグのクラブライセンス制度も、財務や施設、人的体制などを継続的に確認し、改善につなげる仕組みとして機能しています。制度の有無だけを見るのではなく、その導入によって運営や経営判断のあり方がどのように変わったかまで見ていくことが重要です。  
 


ガバナンス審査で指摘される共通課題

ガバナンスコードの適合性審査では、複数の団体に共通する課題が浮かび上がっています。共通する課題としては、外部・女性人材の登用目標や実行策が不十分なこと、通報窓口の守秘義務や通報者保護に関する規程整備が不十分なこと、処分手続の通知方法が明確でないことなどが挙げられます。加えて、人材の採用・育成計画やコンプライアンス委員会の役割整理が不十分な団体も見られ、体制整備を制度で定めても、運用面まで落とし込み切れていない点が課題として浮かび上がっています(※8)。

 

一方で、前向きな変化も見られます。中長期基本計画の策定状況を尋ねた調査では、回答を得た83団体のうち「策定している」と答えた団体は60団体、72.3%でした。2022年度調査の35団体、46.1%から大幅に増加しています(※5)。計画の有無だけでなく、その内容が審査基準に照らして十分かどうかを外部の視点で検証する作業が、次の課題となります。



おわりに    

クラブマネジメント改革の必要性は、不確実な経営環境、ガバナンス不全のリスク、人材不足という3つの課題が同時に存在する点にあります。制度はそうした課題への対応を促す枠組みとして機能し、財務データは改革に取り組んだクラブが着実に成果を出していることを裏づけています。

 

押さえるべきポイントは、経営哲学の明文化とPDCAの徹底、ファン・パートナーとの関係構築、そして財務規律とガバナンス審査への継続的な対応です。自クラブの現状をこれらの視点で棚卸しし、優先度の高い領域から具体的な行動計画に落とし込むことが、改革を進める第一歩となります。
 


参照

(※1) https://www.jleague.jp/corporate/assets/pdf/club_guide/jclub_guide-2025.pdf

(※2) スポーツ庁ホームページ – 担い手となるスポーツ団体のガバナンス改革・経営力強化(第3期スポーツ基本計画):スポーツ庁

(※3) https://www.uefa.com/running-competitions/integrity/club-licensing/

(※4) スポーツ庁 Web広報マガジン|DEPORTARE – スポーツ庁 Web広報マガジン|“スポーツの価値を最大化する”ため、スポーツ団体が取り組む「ガバナンスコード」とは?

(※5) 笹川スポーツ財団 – 中央競技団体、ガバナンスコード遵守が進む 課題は7割以上の団体が抱える正規雇用者不足 - 中央競技団体現況調査2024 - – 調査・研究 – 笹川スポーツ財団

(※6) 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) – クラブライセンス | Jクラブについて | 公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)

(※7) https://www.mext.go.jp/sports/content/20240401-spt-kyosport-000035055_1.pdf

(※8) https://www.mext.go.jp/sports/content/20250326-spt_sseisaku02-000041303_230.pdf

(※9) https://editorial.uefa.com/resources/0290-1bb8779dc8f1-6c1c69c8286e-1000/20240527_circular_2024_25_en_enclosure_1_uefa_clfs_key_amendments_document_en.pdf

(※10) https://www.jleague.jp/corporate/assets/pdf/club_info/club_doc-2024.pdf

(※11) J.LEAGUE SEASON REVIEW 2025 – J.LEAGUE SEASON REVIEW 2025 | Jリーグ シーズンレビュー2025 | 2年連続最高入場者数の記録を更新

(※12) Deloitte – Annual Review of Football Finance 2025 | Deloitte Global

(※13) https://www.bleague.jp/files/user/about/pdf/financial_settlement_2024.pdf

(※14) URAWA RED DIAMONDS OFFICIAL WEBSITE – 2024年度経営情報の開示について | URAWA RED DIAMONDS OFFICIAL WEBSITE



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