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大学スポーツはどう変わる?求められる経営視点と今後の可能性
少子化によって生徒数の減少が避けられないなか、大学にとってスポーツをどう位置づけるかは、経営の課題になっています。大学スポーツに経営視点を持たなければ、ブランド力の低下や地域との接点の喪失、さらには学生の定着率にまで影響が及ぶ可能性があります。
経営視点を取り入れた大学スポーツは、ブランド形成、学生募集、地域・企業連携といった複数の領域で大学を支える資源になり得ます。本記事では、日本と米国の構造的な違いから組織改革の先行事例、政策の活用方法、そして失敗を避けるための注意点まで、実務で押さえるべきポイントを順に見ていきます。
大学スポーツの現在地
課外活動から経営資源への転換
日本の大学運動部は、長らく「課外活動」として位置づけられてきました。学業を推奨する流れが強まりつつあり、以前よりも大学でスポーツに打ち込むことが難しい状況が生まれています(※1)。
大学スポーツは単なる競技活動にとどまらず、教育的価値の再定義、ブランド形成、地域・企業との連携の創出など多面的な側面を持ち、大学の持続可能性を支える「資源」となり得る領域です。ただし日本では、大学としての関与やガバナンスが十分に整理されてこなかったという構造的課題も抱えています(※2)。
課外活動の枠組みのままでは、大学全体の方針とスポーツ部門の運営がかみ合わない場面が生じます。経営視点を持って大学スポーツを位置づけ直すことが、ガバナンス整備の出発点になります。
日本と米国の構造的な違い
少子化による入学者の減少
少子化が進む日本では、若者がスポーツに取り組む難易度自体が上がっています。部員数の減少による活動休止や、部活動の地域移行など、学生のスポーツ環境にはさまざまな課題があります(※1)。
入学者そのものが減れば、スポーツ部門の担い手も減ります。大学側が手を打たなければ、これまで維持してきた運動部の数や質を保つことが難しくなります。経営視点で「どの競技を強化し、どの競技を地域と共同運営するか」といった選択と集中を行う判断が求められています。
大学スポーツに経営視点が必要な理由
ブランド形成と学生募集への効果
大学スポーツは、大学の教育的価値を高め、そして大学を活気づけ、学生を成長させる効果があります。この見方こそが、大学スポーツを経営視点で捉える際の出発点になります(※2)。
スポーツで成果を出す大学は、メディアやSNSを通じて学外からの認知を得やすくなります。認知が高まれば受験生の志望度にも影響が及び、学生募集の面でプラスに働きます。経営視点で大学スポーツを位置づけるために、まずは「どの競技が自校のブランドと合致し、どんな層の受験生に届くのか」を具体的に分析することが求められます。
学生ウェルビーイングと定着率向上
スポーツや身体活動は、学生の心身の健康を向上させ、社会的なつながりを強め、所属意識を高める力を持ちます。これらは、学業成績や卒業後の就業力にもよい影響をもたらします。実際に、活動的な学生は非活動的な学生に比べ、所属する大学への帰属意識が14ポイント高いというデータもあります(※4)。
退学や休学を減らすことは、大学にとって重要な経営課題です。学生の定着率を高める施策としては、大学スポーツを活用することが効果的です。
地域・企業連携による収益基盤
大学スポーツは学生アスリートの成長だけでなく、大学が持つ人材・施設・知識を活用した地域社会の活性化においても役割を担っています(※5)。
地域連携イベントの一例が、2024年11月に開催された「BKCウェルカムデー~びわこ・くさつ健幸フェスタ2024~」です。地域住民、企業、行政、学生、教職員が集い、ウェルビーイングを体感するイベントとして約1万4000人が来場しました(※6)。
こうした地域連携イベントは、大学にとってスポンサーシップや共催費など外部資金を獲得する接点にもなります。経営視点で大学スポーツを運営するならば、地域のどのステークホルダーと連携し、どの規模の収益を目指すのかを事前に設計することが欠かせません。
組織改革の先行事例
筑波大学・体育スポーツ局の一元化
筑波大学は「体育スポーツ局」を設置しました。これまで複数の部局にまたがっていたスポーツに関わる業務を一元化する全学的組織であり、スポーツを通じた人材育成の高度化と、多様な資産を活用した外部資金の獲得を目指しています(※7)。
設置背景には、大学における体育・スポーツ活動が長らく正課外活動として扱われ、教育・研究との接続が曖昧だったという課題があります。加えて、大学スポーツ界で不祥事や勝利至上主義に基づく倫理的逸脱が相次ぎ、大学の関与と責任の在り方が強く問われていました。筑波大学はこうした現状を受け止め、日本の大学で初めて体育・スポーツを学際的な教育・研究の中心的な要素として位置づけました(※8)。
組織を一元化することで、予算配分の可視化、安全管理の統一、対外交渉窓口の一本化が進みやすくなります。複数部局にスポーツ関連の機能が散在している大学は、筑波大学の取り組みを参考に自校の体制を点検してみてください。
神奈川大学・アスレチックデパートメント
神奈川大学は、アスレチックデパートメント(体育局に相当する組織)を設けています。質の高い成果が期待できる課外活動団体を指定し、優秀な指導者の確保、スカウティングルートの確立、必要な施設の整備を進めています。あわせて、文武両道の学生生活を送るための教育支援や就職支援などの施策を組織的かつ総合的に実施しています(※9)。
ポイントは、競技力の向上だけでなく、教育支援や就職支援まで含めた仕組みを一つの組織で担っている点です。経営視点で見れば、スポーツに投じた資源が学生の成長にどうつながったかを一元管理できるため、効果検証が行いやすくなります。指導者の採用方針や支援メニューの設計を1か所で決められるかどうかが、組織改革の成否を分けます。
政策・制度の活用と判断基準
スポーツ庁「感動する大学スポーツ」事業
UNIVAS安全安心認証(SSC)の意義
UNIVASは「UNIVAS SSC(安全安心認証)」を通じて、大学および競技団体の安全安心に関わる環境整備を促進しています(※11)。
大学スポーツでは練習中の事故やハラスメントなどのリスクが常に存在します。こうしたリスクへの備えが不十分なまま放置されれば、大学全体の信用毀損にもつながりかねません。SSCの枠組みは、安全管理体制を外部の基準で点検する機会を提供するものです。
経営視点でリスク管理を行うなら、SSCのガイドラインを自校の安全管理マニュアルと照合し、不足している項目を洗い出す作業を起点にするのが実践的です。認証の取得自体がゴールではなく、認証取得の過程で明らかになった課題に対応し、改善を続けるプロセスに価値があります。
失敗を避けるための注意点
経営視点で大学スポーツを改革する際に、最初に直面するリスクが「勝利至上主義」です。大学スポーツ界では不祥事やラフプレーなどの不正行為が相次いで問題になっています(※8)。
米国でも同様の構造的問題が顕在化しています。資金力のある大学が優秀な選手を買い集めることで寡占状態が生まれ、収益を生む競技への資源集中がそれ以外のスポーツへの支援を細らせています(※3)。
こうした失敗を避けるためには、子どもや学生の主体性を尊重した指導者の育成、地域の特色を生かした学びの機会の創出、そして産官学が連携して地域全体で育てる意識の醸成がポイントです(※12)。経営視点を導入するとは、勝敗だけを成果指標にすることではありません。安全管理、教育的価値、地域貢献など多面的な指標を設定し、それらを定期的にモニタリングする体制をつくることが、持続可能な大学スポーツ運営の土台になります。
おわりに
大学スポーツに経営視点を取り入れるとは、組織体制の一元化、ブランドと学生募集の連動、地域・企業との収益基盤づくり、そしてリスク管理の仕組みを一体的に設計することです。日米の事例が示すように、入学者の減少や資金配分の偏りといった課題は、先送りするほど対応が難しくなります。
自校のスポーツ部門が持つ資源と課題を棚卸しし、公的助成や安全認証などの制度を判断材料に加えながら、競技力・教育・地域貢献のバランスをどこに置くかを具体的に定めていくことが、これからの大学スポーツ運営で欠かせないステップです。
参照
(※1) 三井住友フィナンシャルグループ – インタビュー: 三井住友フィナンシャルグループ
(※2) KEIHER Online. – 「大学スポーツ」をテーマとした特設ページを公開 大学スポーツと大学の未来 – KEIHER Online.
(※3) The White House – Saving College Sports – The White House
(※4) https://bucs.org.uk/static/cba8a4a2-2987-4dd1-9dfc8ca6a0484587/SAWS-Report-20242025-FINAL-compressed.pdf
(※5) UNIVAS (ユニバス) – 【アーカイブ配信】スポーツ庁委託事業「令和7年度 感動する大学スポーツ総合支援事業」成果報告会 | UNIVAS (ユニバス)
(※6) スポーツ庁 Web広報マガジン|DEPORTARE – スポーツ庁 Web広報マガジン|大学スポーツの“チカラ”で、地域社会を笑顔に!
(※7) 筑波大学のスポーツ – 筑波大学
(※8) https://www.tsukuba.ac.jp/pressrelease/pdf/20250724150000-2.pdf
(※9) JINDAI SPORTS | 神奈川大学スポーツサイト – アスレティックデパートメント -神大のスポーツ戦略-|JINDAI SPORTS | 神奈川大学スポーツサイト
(※10) スポーツ庁ホームページ – 令和6年度「感動する大学スポーツ総合支援事業」において3事業合計18大学を選定しました:スポーツ庁
(※11) https://univas.jp/doc/safe/ssc/1_Univas_SafeSecure_Guiedline.pdf
(※12) スポーツ庁 Web広報マガジン|DEPORTARE – スポーツ庁 Web広報マガジン|部活動改革のさらなる推進に向けて~有識者会議の「最終とりまとめ」と産官学連携フォーラムの開催~
