勝てないチームはなぜ変われないのか:チーム改革を動かす組織マネジメントと強化戦略

スポーツ組織が勝てない状態に陥ったとき、選手の入れ替えや練習量の増加だけでは立て直せないケースが多くあります。チーム改革が停滞する背景には、組織マネジメントの構造的な問題や、強化戦略の一貫性の欠如が潜んでいます。こうした仕組みのズレを放置すると、どれほど個の力を補強しても成果に結びつかない悪循環が続きます。

 

勝てないチームが本当に変わるには、仕組みと強化戦略の見直しが必要です。本記事では、スポーツ組織の機能不全パターンからガバナンス、心理的安全性、監督交代の影響、中長期の強化戦略、そして自律型組織への転換まで、現場の事例と数値をもとに具体的なポイントを掘り下げます。



勝てないチームに共通する構造


個の力ではなく「仕組みのズレ」    

チームが勝てないとき、真っ先に疑われるのは選手やスタッフ個人の能力です。しかし、原因の多くは個の力不足ではなく「構造」にあります。メンバー間で目標や役割の認識がズレていると、各自が自分の仕事だけで完結してしまい、協働が生まれません。さらにリーダーが業務を背負いすぎることで、全体の組織マネジメントが滞る状況も起きます(※1)。

 

ある指導者は、勝てないだけでなくチーム内に不満を持つ選手がいて一丸となれない状態に陥った経験を振り返り、「なぜ勝てないのか」「なぜ一丸となって戦えないのか」という事実と正面から向き合った結果、自分自身の指導方法に原因があるのではないかと考え始めたと語っています(※2)。個人の能力を疑う前に、組織マネジメントの枠組み自体を点検する視点が、チーム改革の出発点になります。
 


三つの機能不全パターン

スポーツ組織に限らず、チームが陥りやすい機能不全には典型的な型があります。チーム再建の現場で頻繁に見られる3つのパターンが指摘されています。1つ目は「集団的な責任回避」で、メンバーが判断を上に委ね、誰も説明責任を取らない状態です。2つ目は「集団的な無気力」で、エネルギーも関与意識も低く、当事者意識が薄れた状態を指します。3つ目は「組織のサイロ化と対立」で、部門間の壁や衝突が集団としての成果を遅らせたり台無しにしたりするパターンです(※3)。

 

この3つに共通するのは、どれも個人の技術や体力の問題ではなく、意思決定の構造やコミュニケーションの設計に起因する点です。強化戦略を練る前に、自分たちのチームがどのパターンに該当するのかを見極めることが、チーム改革を前に進める第一歩となります。  
 



ガバナンスと経営基盤の再設計


透明性・説明責任の国際基準

スポーツ組織のガバナンスは、競技力だけでなく組織の信頼性を左右する土台です。英国では2016年10月に、政府および国営宝くじの資金を求める組織に求められる「Code for Sports Governance」が公表され、2017年4月から適用されました。この規範は組織の規模や種別を問わず、競技統括団体やクラブ、慈善団体、地方自治体を含め、助成を求める組織に適用され、透明性・説明責任・財務の健全性に関する基準を3段階で定めています(※4)。

 

スポーツ組織におけるガバナンスモデルは、組織の誠実さと透明性を示す主要な指標の一つとされており、明確に定義された組織構造と公式な規約、そしてガバナンスモデルの公開が求められます(※5)。公的資金の受け入れ条件としてガバナンス基準を設ける仕組みは、スポーツ組織の経営基盤を底上げするための具体的な手段といえます。
 


Jリーグに学ぶ経営チェック

国内のスポーツ組織の中で、ガバナンスの仕組みを明文化している代表例がJリーグです。Jリーグのクラブ経営ガイドラインでは、経営陣の個人的利害や独断によらず、クラブ価値の向上に沿った経営者の監督や選任・解任が可能となる機関設計とプロセスを整備し、その状態を定期的に評価・見直すことが求められています。具体的には、自ら経営を律する体制を整備する必要性への理解と意識の醸成、そしてステークホルダーの視点も考慮しつつ経営陣から高い独立性を持った機関設計を行うことが掲げられています(※6)。

 

こうしたチェック項目は、いわば「経営の健康診断表」として機能します。組織マネジメントの透明性を担保するために、第三者の目線で定期的に点検する仕組みを持つことが、チーム改革を経営面から支える土台になります。
 


中央競技団体の課題と数値

国内の中央競技団体においても、組織基盤の整備は進みつつあります。中長期基本計画を策定している団体は、2020年度調査では27.8%、2022年度調査では46.1%と着実に増加し、直近の調査では回答を得た83団体のうち60団体、つまり72.3%が策定済みと回答しました。スポーツ庁の中長期計画策定支援事業などがこうした基盤整備の後押しになっています(※7)。

 

一方で、正規雇用者について「やや不足している」が33.7%、「不足している」が38.6%と、合計で7割を超える団体が人材不足を訴えています。計画を立てても、それを実行する人材が足りなければ強化戦略は空論になりかねません。スポーツ組織の改革には、計画策定と同時に実行体制の確保が欠かせません。
 



心理的安全性とチーム文化の変革


心理的安全性が成果を左右する根拠

チーム改革を進める上で見落とされがちなのが、メンバーが率直に意見を言える環境づくりです。2024年の調査では、自分の職場が心理的に安全な環境だと感じている人はわずか26%にとどまり、心理的安全性がいかに希少で価値のあるものかが浮き彫りになっています(※8)。

 

スポーツ現場での具体的な効果も報告されています。信頼関係の高いチームではコミュニケーションの質が30%向上し、メンタルタフネスの訓練を受けたチームはプレッシャーのかかる場面でのミス率を15%削減しました。さらに、あるサッカーチームでは対立解消の研修を導入した結果、チーム内の紛争が40%減少しています(※9)。心理的安全性は抽象的な概念ではなく、数値で測れるパフォーマンス要因です。  
 


「馴れ合い」から本音の対話へ

心理的安全性と「馴れ合い」はまったく異なるものです。あるラグビーチームでは、組織文化の診断で「馴れ合いがある」という項目の数値が高く出ました。これは、本来言わなければならないことを言えていないチーム環境であることを表しています(※10)。

 

一方、英国のラグビークラブであるBristol Bearsの指導者は、全員が全員を助け合う文化を築き、共通のビジョンを持ち、適切な人材が適切な役割に就いている状態を実現したと語っています(※11)。馴れ合いの状態から脱却し、本音で対話できるチーム文化をつくることが、スポーツ組織のチーム改革において組織マネジメントの核となります。
 



監督交代とパフォーマンスの関係


監督交代が身体指標に及ぼす影響

監督交代はチーム改革の象徴的な手段です。あるプロサッカーチームを対象にした研究では、シーズン中に3つの異なる指導体制を経験した選手のGPSデータを比較しています。その結果、総走行距離よりも、高負荷走行・高速走行・スプリント距離といった「高強度の動き」に違いが見られました。総走行距離そのものには大きな差は見られなかった一方で、第3の指導体制では、試合中に高い負荷で走る距離がより多くなっていました(※12)。

 

このデータが示すのは、監督が変わると練習内容や戦術が変化し、その結果として選手の身体的なパフォーマンス指標にまで影響が及ぶという事実です。強化戦略として監督交代を検討する際には、短期的な勝敗だけでなく、選手の身体負荷の変動も視野に入れる必要があります。
 


指導者選定プロセスの透明化

監督交代の効果を最大化するには、選定プロセスそのものの設計が欠かせません。Jリーグでは、チェアマン選定にあたり候補となる人材をリストアップして200名を超えるロングリストを作成し、人材要件で評価した上でショートリストへ絞り込むプロセスを実施しました。現職者に対しては360度調査やエンゲージメント調査の結果を収集し、社内外のステークホルダーへの個別インタビューも行っています(※13)。

 

また旭化成陸上競技部では、総監督の退任と監督交代に伴い、現ヘッドコーチを新監督に据える人事が公表されました(※14)。指導者の交代を場当たり的に行うのではなく、評価基準と手順を明確にすることが、組織マネジメントの信頼性を高めます。
 



中長期強化戦略の立て方    


フィロソフィーと一貫性の構築

チーム改革を一過性のイベントで終わらせないためには、中長期の強化戦略を支えるフィロソフィーの明確化が必要です。Jリーグのクラブ経営ガイドラインでは、クラブのフットボールフィロソフィーを明確化した上で中期強化計画や各種基準に落とし込み、それらに基づいた編成によって中長期的にトップチームの強化を図ることが掲げられています(※6)。

 

フィロソフィーが曖昧なまま監督交代や選手補強を繰り返すと、強化の方向性が揺れ続けます。経営と現場が同じ基準を共有する仕組みづくりが、組織マネジメントの根幹を支えます。
 


日本ラグビー協会の成長サイクル  

中長期の強化戦略を組織全体で練り上げた事例として、日本ラグビーフットボール協会の取り組みがあります。同協会は2023年11月から「中期戦略計画2021-2024」を検証して課題を抽出し、次の4年間で目指すべきことについて約1年をかけて議論を重ねました。その過程では理事会、事業遂行責任者会、職員によるワークショップなど、さまざまな機会を設定して幅広い意見を集めています(※15)。

 

国内の中央競技団体全体でも、中長期基本計画を策定する団体は2020年度の27.8%から2022年度には46.1%へ、そして直近では72.3%へと増加しており、スポーツ庁の支援事業もこの動きを後押ししています(※7)。計画を立てるだけでなく、前期の検証から次期の策定へつなぐサイクルを回すことが、強化戦略の実効性を高める鍵となります。
 



自律型組織への転換と人材育成


帝京大学ラグビー部に見る脱・縦型  

トップダウンの指示命令型から脱却し、選手やスタッフが自ら考えて動く組織への転換は、スポーツ組織のチーム改革における大きなテーマです。帝京大学ラグビー部を率いた指導者は、自律型組織について「組織として達成したいことは何かを決めるのはトップの役割だが、こと細かな指示は出さず、達成するための組織運営は現場のリーダーに任せる」と述べています(※2)。

 

実際にあるラグビーチームでは、コーチやスタッフの指示を待ってから動くのではなく、自ら行動を起こす姿勢への変化が見られました。フィードバック研修を経て、練習後にトークタイムを設けてトレーニング映像をもとに議論する取り組みや、月の目標を作成してクラブハウスに掲示する活動が選手側から提案されています(※10)。「リアクションからアクションへ」という変化は、組織マネジメントの質を変える転換点です。
 


人材不足時代のスポーツ組織戦略

自律型組織を支えるには、それを担う人材の確保と育成が前提となります。しかし中央競技団体を対象とした調査では、人材育成に取り組む上での課題として「育成にかける時間の不足」が76.0%と最も高く、「育成のための資金がない」が62.7%、「指導する人材の不足」が54.7%、「育成のためのノウハウがない」が41.3%と続いています(※7)。

 

チーム再建の専門家も、責任を上に委ねる文化を変えるには時間がかかると指摘しています。新しいリーダーはメンバーが自分で判断する必要性を絶えず伝え、委譲された判断を本人に戻し、望ましい行動を示した人を称える姿勢が欠かせません(※3)。人材が限られた環境だからこそ、一人ひとりの自律性を高める組織マネジメントが、スポーツ組織の強化戦略を下支えします。
 



おわりに

勝てないチームが変われない理由は、選手個人の能力ではなく、組織マネジメントの構造的なズレにあることが多いです。ガバナンスの透明性、心理的安全性の確保、指導者選定の仕組み化、フィロソフィーに基づく中長期の強化戦略、そして自律型組織への転換という5つの視点が、チーム改革を前に進める柱となります。

 

どこから着手するかはチームの現状によって異なりますが、まず自分たちがどの機能不全パターンに陥っているかを見極めることが出発点です。仕組みを変えれば人が変わり、人が変われば結果が変わるという循環を、スポーツ組織の現場で実践につなげられます。
 


参照

(※1) National Library of Medicine – “Getting on the same page” enhancing team performance with shared mental models—case studies of evidence informed practice in elite sport

(※2) mypage.otsuka-shokai.co.jp – 人の力を最大化する「自律型組織」(前編)|大塚商会

(※3) deloitte.com

(※4) uksport.gov.uk – New Code for Sports Governance published | UK Sport

(※5) opensportssciencesjournal.com – Integrity and Transparency in Sports: A Survey Review

(※6) aboutj.jleague.jp

(※7) プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES – 中央競技団体、ガバナンスコード遵守が進む。課題は7割以上の団体が抱える正規雇用者不足。 | 公益財団法人 笹川スポーツ財団のプレスリリース

(※8) AEEN – Psychological safety and feedback as drivers of learning in high-performance teams – AEEN

(※9) Dr Paul McCarthy – Sports Psychology: A Psychologist’s Guide to Restoring Team Performance

(※10) bywill.co.jp – 組織文化の見える化によって産まれた「本音の話し合い」がチーム初の快挙をもたらす/クボタスピアーズ様

(※11) Business Plus – Building Winning Cultures: The Power of Psychological Safety in Sports — and Beyond

(※12) National Library of Medicine – The Impact of Managerial Changes on Physical Performance in Elite Soccer Players

(※13) aboutj.jleague.jp

(※14) asahi-kasei.com – 当社陸上競技部の総監督退任・監督交代のお知らせ | 2024年度 | ニュース | 旭化成株式会社

(※15) https://rugby-japan.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/file/html/201761_686e129359f21.pdf


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